初のヒト対象プライム編集試験で患者2人の免疫細胞機能が回復…レビューが示す成果と課題

精密な遺伝子編集が初期臨床試験へ
プライム編集(prime editing・PE)の初のヒト対象試験で、慢性肉芽腫症の患者2人における免疫細胞機能の回復が報告された。機能はそれぞれ6カ月と4カ月の追跡期間中維持されたが、長期的な効果や治癒を判断するには時期尚早だ。Molecular Therapyに掲載された本論文は、新たな臨床結果を直接報告する原著論文ではなく、プライム編集の仕組みや技術改良、前臨床研究、初期臨床結果をまとめたレビューである。
DNAの片鎖を切り、RNA鋳型で配列を変える
従来のCRISPR-Cas9はDNAの両鎖を切断し、細胞の修復経路を利用する。この過程で生じる小さな挿入・欠失は遺伝子の不活化には有用だが、疾患変異を目的の配列へ正確に修正するには制約がある。
基本的なプライム編集では、DNAの片鎖を切るCas9ニッカーゼと逆転写酵素を組み合わせる。プライム編集ガイドRNA(pegRNA)は標的部位へ導くと同時に、修正配列の鋳型も提供する。逆転写酵素がこのRNA鋳型をもとに新しいDNAを合成し、細胞の修復過程を経て修正配列が組み込まれる。
編集位置の柔軟性は高まるが、Casタンパク質が認識する隣接配列であるPAMの制約がなくなるわけではない。反対鎖にも切れ目を入れるPE3は効率を高める一方、望ましくない挿入・欠失を増やす可能性がある。二本鎖切断を用いる派生技術もあるため、すべてのプライム編集を「二本鎖切断のない技術」と説明することはできない。
初の臨床試験では患者細胞を体外で編集
レビューで紹介された臨床用細胞製品PM359は、患者自身のCD34+造血幹・前駆細胞でNCF1遺伝子のdelGT変異を体外で修正し、再投与するものだ。慢性肉芽腫症では、微生物の除去に必要なNADPHオキシダーゼの機能が損なわれる。この試験では関連する遺伝子変異を直接修正し、機能回復を評価した。
製造工程では、電気穿孔法で編集酵素のmRNAと化学修飾ガイドRNAを細胞に導入した。患者にナノ粒子や分割ウイルスベクターを投与した試験ではない。細胞投与前にはブスルファンによる前処置も行われた。
投与後30日目に、好中球の酸化機能を評価するジヒドロローダミン(DHR)検査で陽性細胞の割合は、2人の参加者でそれぞれ69%と83%だった。好中球のNADPHオキシダーゼ活性はそれぞれ6カ月と4カ月維持され、PM359に起因する重篤な有害事象は報告されなかった。これは機能回復を示す初期の根拠であり、有害事象が一切なかった、あるいは長期安全性が確立したことを意味しない。参加者が2人で追跡期間が短い点も解釈上の限界である。
別の疾患研究が示す可能性と条件
レビューに含まれた鎌状赤血球症の研究では、患者由来の造血幹・前駆細胞の対立遺伝子の約40%が修正された。これは体外での細胞研究の結果であり、患者の治療成績ではない。遺伝性チロシン血症1型のマウス研究では、修正された肝細胞が選択的に増殖し、初期の修正率が低くても機能改善がみられた。しかし、同じ選択的増殖の利点を腎臓や神経系で期待することはできず、肝臓での成果だけから全身治療の可能性を判断するのは難しい。
研究者らは、編集酵素の小型化、ガイドRNAの安定化、組織別送達法の改善を臨床応用拡大に向けた主な課題として挙げた。非分裂組織での低い編集効率も解決が必要だ。安全性評価には、オフターゲット編集だけでなく、標的部位で生じる望ましくない編集産物、大規模なゲノム構造変化、免疫反応も含める必要がある。適用範囲は、疾患や細胞ごとの効率、送達、安全性の検証に左右される。
詳しくは、Molecular Therapy掲載のレビュー「A primer on prime: A prime editing update from advances to first-in-human trial」の公開全文を参照。
CRISPRシステムの登場はゲノム編集を変革し、比類なき効率と汎用性、そして広範な治療可能性を提供しました。しかし、従来のCRISPRシステムは、二本鎖切断の修復過程における予測不可能かつ不正確な結果や、特定のプロトスペーサ隣接モチーフ(PAM)配列への依存といった重要な制限があります。これに応える形で、prime editing(PE)は強力な代替手段として浮上し、Cas9 nickaseと設計されたreverse transcriptase(RT)を融合させ、望ましい修復テンプレートをコードするprime editing guide RNA(pegRNA)と組み合わせることで、精密なカスタム編集を可能にします。PEは標的部位上または下流に編集を導入でき、対象とできる配列の範囲を拡大します。創出以来、PEはCasバリアントの選択、RTのエンジニアリング、pegRNAの改良など、広範な最適化が行われてきました。並行して、nanoparticlesやsplit viralシステムといった送達技術の進歩により、前臨床疾患モデルでの翻訳が加速しています。特筆すべきは、PEがすでに臨床に進出し、初のヒト試験で機能的回復と有望な安全性プロファイルが報告されている点です。本稿では、PEの最新の機構的知見、構造的イノベーション、治療応用を概観し、効率、送達、安全性に残る課題が今後の臨床インパクトをどのように形作るかを論じます。
プライム編集の実質的な価値は、遺伝子を不活化するだけでなく、病的な配列を直接修正したり、タンパク質の読み枠を復元したりできる点にある。研究者は編集率に加えて、正確に修正された産物の割合、機能回復、望ましくない編集産物、送達可能な組織を評価する必要がある。特に、採取して再投与できる造血細胞での初期臨床成果を、筋肉や網膜など体内の組織にそのまま一般化することはできない。肝疾患の別の動物研究も、修正細胞の選択的増殖が効果を左右しうることを示している。PM359の結果は、臨床規模での体外プライム編集の実施可能性を裏付ける初期の根拠であり、今後の応用は長期追跡と疾患ごとの検証によって決まる。