LNPによる肺への遺伝子送達、迅速なタンパク質発現と肺損傷リスクを確認

背景:ドナー肺の免疫調節を目指す非ウイルス性キャリア
ドナー肺の免疫調節を目的に開発された脂質ナノ粒子(LNP)は、細胞および肺組織で高い遺伝子導入率と迅速なタンパク質発現を示した。一方、ラットへの気管内投与では有意な肺損傷が観察された。送達効率を高める組成の最適化と並行して、安全性を検証する必要があることを示す結果だ。
本研究では、非ウイルス性遺伝子送達プラットフォームとしてLNPを評価した。細胞株で候補を選別した後、ヒト肺組織切片でアデノウイルスベクターとのタンパク質発現を比較し、ラットで投与量と発現、肺損傷の関係を調べた。移植拒絶反応や患者の生存率を評価した臨床試験ではない。
主な発見:ST-1・DOTAPの組成と発現速度
研究チームは、イオン化脂質5種類と補助脂質2種類を組み合わせたLNP候補10種類に、レポータータンパク質mCherryをコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を封入した。細胞株での遺伝子導入率はフローサイトメトリーで測定した。このうち、イオン化脂質ST-1と補助脂質DOTAPを組み合わせた製剤は、ヒト肺上皮細胞で91.3 ± 6.9%、ヒト単球系細胞で88.4 ± 6.3%の導入率を記録した。
DOTAP含有量を39%から7.8%に下げると、導入率はさらに上昇した。ただし、抄録には改善幅や含有量の算出基準が示されていないため、この比率をあらゆる肺送達条件に適用できる最適組成と一般化することは難しい。
ヒト精密切断肺組織スライス(PCLS)では、ST-1・DOTAP 7.8%製剤によるmCherry発現は投与2日後にピークに達した。アデノウイルスベクターより早いピークだが、比較対象ベクターの正確なピーク時期と発現持続期間は抄録から確認できない。この結果だけで、移植後の免疫調節効果が実証されたとはいえない。
意義と展望:炎症の軽減と安全性の確立は区別が必要
mCherry mRNAを封入したST-1・DOTAP 7.8%製剤を500 μg/kgの条件でラットの左肺に気管内投与したところ、有意な肺損傷が生じた。一方、ヒトインターロイキン10(hIL-10)mRNAを50 μg/kg投与した条件では、LNPによる肺炎症が軽減され、左肺で研究チームが目標としたhIL-10濃度であるタンパク質1 mgあたり59 pgが報告された。
この二つの条件は、投与量だけでなくmRNAの種類も異なる。そのため、炎症の軽減を投与量の低下だけの効果と解釈したり、hIL-10によって毒性が完全に解消したと断定したりしてはならない。非ウイルス性キャリアだから免疫反応を回避できるとする根拠もない。
本研究は、肺へのmRNA送達では迅速な発現と組織損傷リスクの両方を評価すべきことを示している。臨床応用の前に、組成・投与量・mRNAの種類に応じた発現と炎症をさらに検証する必要がある。提供された抄録には、実際のゲノム編集の成功や長期安全性の結果は示されていない。
出典:Europe PMCに収載された研究抄録と書誌情報。
OBJECTIVE: ドナー肺の免疫調節のための遺伝子編集における非ウイルスベクター送達プラットフォームとして、新規合成脂質ナノ粒子(LNP)の効率とタンパク質発現プロファイルを評価すること。
METHODS: mCherry mRNAを10種類のLNP候補(イオン化脂質5種×補助脂質2種)と組み合わせて製剤し、フローサイトメトリーで細胞株における遺伝子送達効率を評価した。最も有望なLNPを最適化し、ヒト精密切片肺(PCLS)モデルにおいてmCherry酵素免疫測定法(ELISA)を用いて、アデノウイルスベクター(ADVs)とのタンパク質発現を比較した。さらに、ラットの生体内モデルで気管内投与を行い、mCherryおよびヒトインターロイキン-10(hIL-10)mRNAを用いてLNP投与量とタンパク質発現の関係を評価した。
RESULTS: イオン化脂質ST-1(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン [DOTAP] と組み合わせ)を用いたLNPは、ヒト肺上皮細胞で91.3 ± 6.9%、ヒト単球細胞で88.4 ± 6.3%という高いトランスフェクション率を示した。DOTAPの含有量を39%から7.8%に減少させると、さらにトランスフェクション率が向上した。ヒトPCLSにおけるST-1 DOTAP(7.8%)使用時のmCherry発現ピークは投与後2日で、アデノウイルスベクターよりも速かった。ラット左肺に500 μg/kgのST-1 DOTAP(7.8%)をmCherryと共に気管内投与すると顕著な肺損傷が生じたが、50 μg/kgのhIL-10 mRNA投与によりLNP誘発性肺炎症が緩和され、左肺で目標濃度59 pg/mgタンパク質の発現に成功した。
CONCLUSIONS: LNPは体外および体内で迅速かつ効率的なタンパク質発現を実現し、ウイルスベクターの性能を上回ったが、気管内投与に伴う顕著な肺損傷が観察された。本結果は、臨床応用に先立ち、肺へのLNP媒介遺伝子送達をさらに最適化する必要性を強調している。
ドナー肺に免疫調節用mRNAを送達する技術を開発する際は、タンパク質がどれほど速く作られるかと、肺組織がどれほど損傷するかを併せて調べる必要がある。今回のST-1・DOTAP製剤はヒト肺組織スライスで迅速な発現を示した一方、ラットへの気管内投与では肺損傷も明らかになった。今後の前臨床研究では、同じmRNAの投与量を変えたり、同じ用量でmRNAの種類を比較したりする設計が、発現と炎症の関係を切り分けるうえで役立つ可能性がある。hIL-10条件で炎症が軽減したことは、こうした最適化を続ける根拠となる。ただし、肺移植患者に安全であることや拒絶反応を減らすことを示す証拠ではない。