がん免疫療法の性差、進行非小細胞肺がんの一次単独療法に手がかり…個別化治療は検証が課題
性別による相対的ベネフィットは治療原則として確立されていない
進行非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療としての免疫チェックポイント阻害薬単独療法では、化学療法と比べた相対的ベネフィットが女性より男性で大きい傾向が報告された。臨床試験と機序研究を総合したレビューによる分析である。ただし、男性には単独療法、女性には化学療法と免疫療法の併用療法が最善だという治療原則が実証されたわけではない。
2026年3月に『Immunological Reviews』に掲載されたこの論文は、新たな患者群を募集した臨床試験ではなく、既存研究をまとめたレビューである。研究者らはNSCLCを中心に、治療反応の性差と、腫瘍微小環境、性ホルモン、性染色体、生活習慣との関連を検討した。
単独療法と併用療法で観察された異なるシグナル
レビューが引用したKEYNOTE-024は、PD-L1発現率が50%以上のステージIVのNSCLC患者を対象に、一次治療としてのペムブロリズマブ単独療法とプラチナ製剤ベースの化学療法を比較した。参加者は男性187人、女性118人だった。2019年の解析における死亡ハザード比は、男性で0.54(95%信頼区間 0.36–0.79)、女性で0.95(0.56–1.62)だった。各性別内で化学療法と比較した相対的ベネフィットは、男性でより大きかった。
一方、転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療を評価したKEYNOTE-189の最終解析では、ペムブロリズマブと化学療法の併用群における死亡ハザード比は、化学療法単独群と比べて男性で0.74(95%信頼区間 0.56–0.96)、女性で0.41(0.30–0.56)だった。ただし、併用療法の研究すべてで同じ傾向が示されたわけではない。性差が小さい試験や、数値上は男性でベネフィットが大きい試験もあり、二次以降の治療や周術期治療でも結果は一貫していなかった。
これらの数値は、男女間の生存を直接比較したものでも、免疫療法単独と併用療法の優劣を検証したものでもない。対照群の化学療法の成績もハザード比に影響する。一方の性別でのみ統計的有意性が確認されても、性別間の治療効果の差が証明されたことにはならない。女性の参加者が少なければ推定の不確実性は増し、複数の試験で男女の信頼区間は重なっていた。相対的ベネフィットに加え、実際の生存期間など絶対的な転帰も検討すべき理由である。
ホルモンと免疫細胞の関連も状況によって異なった
レビューに含まれた別個の実験研究は、考えられる生物学的説明を提示している。一部のマウス腫瘍モデルでは、アンドロゲン受容体シグナルが、がん細胞を攻撃するCD8 T細胞の機能低下と疲弊に関与していた。疲弊とは、持続的な刺激のもとでT細胞の機能が低下した状態を指す。このシグナルを阻害すると腫瘍増殖は遅くなったが、免疫チェックポイント阻害薬による追加効果は実験条件によって異なった。一部の研究では、ヒト腫瘍検体とマウスで観察されたT細胞の状態にも異なる傾向が見られた。
エストロゲンの作用も、がん種や受容体の種類によって異なった。X・Y染色体に関連する要因も論じられたが、喫煙歴、腫瘍変異、年齢、ホルモン状態などの併存要因の影響を切り分ける必要がある。性差を特定のホルモン一つで説明したり、前臨床結果をホルモン抑制を併用する治療の臨床効果と解釈したりできる段階ではない。
直接比較試験と十分な性別ごとの解析が必要
重要なエビデンス上の空白は、同一条件で単独療法と化学療法・免疫療法併用療法を直接比較し、性別による効果の差を検証する根拠が不足していることだ。レビューが紹介した2025年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)発表によると、PD-L1発現率50%以上のNSCLC患者を対象としたPAULIEN無作為化試験は、最初の中間解析で治療6週後の奏効に差が認められず終了した。当時の解析対象は72人で、性別によるサブグループ解析には不十分だった。これは長期生存や性別による効果が同じだという結論を意味しない。
レビューの研究者らは、NSCLCの女性患者400人超を対象に2つの戦略を直接比較するIFEM無作為化第3相試験の研究資金を確保したと述べた。これは検証計画であり、治療結果ではない。レビューは、現在、性別はがん治療の選択を日常的に導く基準ではなく、性別ごとに十分な参加者数と臨床・分子情報を備えた研究が必要だと結論づけた。
詳細なエビデンスは、レビュー全文およびPubMedの書誌情報・抄録を参照。
蓄積された証拠は、免疫系が男性と女性の間で微妙ながら重要な差異を示すことを示唆しています。これらの差異はがんの発生やTMEの構成、さらには免疫療法によって引き起こされる反応や副作用に影響を及ぼす可能性があります。いくつか(すべてではない)臨床試験は、特に非小細胞肺がん(non‑small cell lung cancer)やメラノーマ(melanoma)において、男性患者が女性患者よりも単独免疫療法(mono‑immunotherapies)から化学療法に比して大きな利益を得ることを示しています。逆に、女性患者は化学免疫併用療法(chemo‑immunotherapies)からより大きな利益を得る可能性があります。ヒトおよび動物モデルにおいて、がん微小環境の構成における性差が報告されており、結果は部分的に異なります。テストステロンやエストロゲンといったホルモンのレベル、あるいはX染色体やY染色体に関連する遺伝子などの性特異的要因が観察された差異を駆動していると考えられますが、喫煙行動、食事、UV曝露といった外部要因により混乱することが多いです。したがって、性別ががん免疫療法に与える影響や、いずれの性でも応答を最適化する戦略に関する大規模な臨床的・機構的知識のギャップが残っています。この分野での臨床的および実験的研究をさらに進めて知識ギャップを埋める必要があり、臨床試験は性別ごとの解析を十分に行えるよう、男性および女性患者の十分な数を含めるべきです。
このレビューは、既存臨床試験の平均効果だけでは見落とされる可能性のある性差と、それを検証するために必要な研究条件を整理した。研究者は男女のハザード比を並べて示すだけでなく、性別間の治療効果の差を検証し、対照群の成績、生存期間の絶対値、毒性をあわせて評価する必要がある。喫煙歴、腫瘍の遺伝的特性、ホルモン状態を臨床情報や検体解析と結び付けることで、性別そのものの影響と併存要因の影響を区別しやすくなる可能性がある。別個の動物実験が示したホルモンと免疫細胞の関連は今後の研究仮説となるが、患者の治療変更やホルモン抑制の併用を裏付ける臨床エビデンスとはみなせない。