切除可能な胃癌において、術前後のデュルバルマブ併用療法により3年生存率69%を達成

背景
胃癌および胃食道接合部癌は、世界的な癌死因の上位を占める致命的な悪性腫瘍である。切除可能な局所進行期であっても、単純な手術のみでは微小転移の制御が困難であり、患者の再発リスクが高かった。そのため、医学界では生存率向上を目指し、術前後に化学療法を投与する治療戦略を構築してきた。その代表的な処方が、フルオロウラシル、レボルビナ、オキサリプラチン、ドセタキサートを併用するFLOT療法である。
既存の多施設共同第3相試験を経て、術前後の細胞毒性化学療法は標準治療として定着したが、患者の長期予後の改善は停滞していた。薬物治療を完遂した患者の約半数が数年以内に再発し、死に至るという限界が存在したためである。腫瘍治療成績を飛躍的に向上させる、新しい機序を持つ薬剤の導入が切実に求められていた。
末期または転移性胃癌の治療現場では、すでに明確な進展が見られた。PD-1(プログラム細胞死リガンド1)およびPD-L1(プログラム細胞死リガンド1)を遮断する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)と白金製剤ベースの化学療法を併用することで、患者の生存期間が有意に延長することが確認された。特に腫瘍微小環境におけるPD-L1発現が高い患者群で、薬剤反応率が顕著であった。こうした臨床成果は、研究者たちが転移のない切除可能期の患者に対し、免疫チェックポイント阻害剤を先制投与するという新たな試験へと目を向ける決定的な契機となった。
主な発見
グローバル第3相臨床試験であるMATTERHORN研究のチームは、切除可能な局所進行胃癌および胃食道接合部腺癌患者を対象に、術前後の免疫療法の有効性をランダム化二重盲検法で評価した。参加患者は、術前後のFLOT療法に抗PD-L1免疫チェックポイント阻害剤であるデュルバルマブ(durvalumab)を追加した試験群と、プラセボを投与した対照群にランダムに割り当てられた。
最終的に集計された臨床データは、術前後の免疫療法の追加が、腫瘍の消失と生存率の改善の両面において有意な優位性を示したことを証明している。腫瘍組織検査において残存癌細胞が完全に消失した病理学的完全奏効(pCR)率は、デュルバルマブ併用群が24%を記録し、プラセボ群の9%に対し2.5倍を上回った。術前の先行治療のみで腫瘍を完全に消失させる割合が大幅に上昇したことで、外科的完全切除(R0切除)の成功率も伴って上昇するという好循環をもたらした。
長期生存指標においても、明確な差が観察された。デュルバルマブ併用群は対照群と比較して死亡リスクを22%低下させ、ハザード比(HR)0.78を記録した。投与3年時点の全生存率(OS)は、デュルバルマブ併用群が69%に達し、プラセニボ群の62%を明確に上回った。無イベント生存率(EFS)の同時改善に加え、今回の生存利益はPD-L1の発現の有無に関わらず一貫して観察され、リンパ節転移陽性の高リスク群において治療効果がより顕著であるとの分析がなされた。
意義と展望
本研究は、末期患者の緩和療法に留まっていた免疫チェックポイント阻害剤を、根治を目的とした術前後の治療の最前線に位置づけたと評価されている。癌組織が完全な状態で存在する手術前に免疫抗癌剤を事前に投与することで、体内のT細胞が腫瘍抗原を広範囲に学習するように誘導する免疫学的機序が、実際の生存率向上へと繋がった。これに伴い、米国総合癌ネットワーク(NCCN)をはじめとする国際的な臨床ガイドラインも、局所進行胃癌患者の一次標準治療の推奨案を迅速に改訂するものと予測される。
ただし、現場への導入に向けて管理すべき課題も決して軽くない。強力な化学療法に免疫抗癌剤を加えることで発生する免疫関連有害事象(irAE)や毒性の重複問題を綿密に監視する臨床プロトコルが不可欠である。深刻な自己免疫疾患や手術合併症によって計画された手術スケジュールに支障が出ないよう、外科と腫瘍内科の多職種連携(マルチディシプリナリー診療)が緊密に行われなければならない。高価な免疫治療薬の併用による患者の医療費負担や、各国における健康保険の適用問題は、治療へのアクセスを決定づける最大の変数として残っている。
Gastric and gastro-oesophageal junction cancers are among the most common causes of cancer-related deaths.1 In patients with operable tumours, several phase 3 trials established the value of perioperative chemotherapy.2–4 In parallel, phase 3 studies in advanced disease confirmed a survival advantage for anti-PD-1 and anti-PD-L1 immune checkpoint inhibitors in combination with platinum doublet chemotherapy, particularly in PD-L1 expressing tumours.5 Thus, examination of whether immune checkpoint inhibitors could improve outcomes in patients who are non-metastatic was warranted.
MATTERHORN研究が提示したデータは、実際の診療現場における治療フローを再構築するための強力な根拠として機能する。局所進行胃癌患者が診断された際、外科医と腫瘍内科医は手術計画を立てる前に、デュルバルマブとFLOT療法を先行投与して腫瘍サイズを縮小させ、微小転移を先に遮断するという治療経路を辿ることになる。術後も残存病変の再発を防ぐ補助療法を継続することで、患者の完治の可能性を最大化するシナントリオが現実のものとなるのだ。
製薬・バイオ産業界にも、少なからぬ波及効果をもたらすと予想される。従来、転移性病期の患者を中心に処方されていた免疫チェックポイント阻害剤の市場範囲を、切除可能な早期癌の段階へと大きく拡張する契機となったためである。後続の薬剤開発においても、単独療法よりは、術前後の複合免疫治療パイプラインに集中する可能性が高まった。