パンハンドル型UTR設計、低用量インフルエンザmRNAワクチンでマウスの防御を確認

インフルエンザワクチンの接種量を減らす設計
インフルエンザAウイルス由来の非翻訳領域(UTR)を設計し、低用量mRNAワクチンの防御効果を高めたマウス研究が報告された。研究チームは、1回0.1μgを2回接種した条件で、各ウイルスに対応するワクチンの防御効果を確認した。ヒトでの予防効果はまだ検証されていない。
インフルエンザでは抗原変異が続いており、ワクチンの防御範囲を改善する方法が求められている。mRNAワクチンは迅速に開発でき、設計の自由度も高いが、少量で十分な抗原発現と免疫応答を誘導するには、抗原配列以外の調節要素も検討する必要がある。今回の研究は、mRNAの安定性とタンパク質産生を調節するUTRに着目した。
ウイルスのパンハンドル構造を利用した低用量での防御
研究チームはインフルエンザAウイルスのM分節から着想を得た。RNAの両端にある相補的な塩基配列が対を形成し、パンハンドル構造となるようUTRを設計し、3′ UTRには塩基対形成を強める変異を導入した。このうちM1+2は、培養細胞とマウスで、変異を導入していないM由来UTRおよびα-グロビンUTRの対照群より高いタンパク質発現を示した。ただし、予測された構造の安定性と発現効率は一貫して比例しておらず、安定性の上昇だけで効果を説明することは難しい。
ワクチンには、インフルエンザのヘマグルチニン(HA)抗原をコードするmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)に封入した。マウスに1回0.1μgを14日間隔で2回筋肉内投与し、初回接種から28日目にウイルスをチャレンジ接種した。H1N1、H3N2、インフルエンザB型にそれぞれ対応するHAワクチンを作製した試験では、M1+2群のマウスはチャレンジ接種後14日間、体重減少なく全例が生存した。各試験の各群は6匹だった。単一のワクチンが3種類すべてのウイルスに交差防御を示したという意味ではない。
比較用の接種量も重要だ。1回2μgの条件では、UTRの種類を問わずすべてのワクチン群が生存し、M1+2の赤血球凝集抑制抗体価も他の有力候補と有意差がなかった。M1+2設計の防御上の利点は低用量でより明確に現れた。別の免疫解析では、追加接種24時間後に抗原特異的なインターフェロンγ(IFN-γ)分泌応答が確認されたが、研究者らはT細胞応答の大きさは小さかったと説明した。これは抗原再曝露直後の応答を調べた結果であり、0.1μgの防御試験で強いT細胞免疫まで直接証明されたと解釈すべきではない。
他のワクチンへの応用と臨床効果の検証は今後の課題
今回の結果は、UTRの最適化がインフルエンザmRNAワクチンの接種量低減に寄与する可能性を示している。ただし、比較対象は研究で用いたα-グロビンUTR製剤であり、市販ワクチンの完成製剤との直接比較ではない。
同じ設計を他のウイルスやがん抗原のワクチンに適用できるかは、今後の研究課題だ。実際の開発でも接種量の低減が維持されれば、製造コストや供給面で利点が期待できるが、今回の研究は経済性やヒトでの副作用低減を確認したものではない。長期的な防御の持続性や、ヒトでの有効用量・安全性には別途評価が必要となる。研究条件と結果はNPJ Vaccines掲載論文の原文に示されている。
インフルエンザウイルスは世界的な公衆衛生に対し持続的な脅威をもたらし、広範な呼吸器疾患と重大な罹患率を引き起こします。ワクチン接種は季節性インフルエンザおよびパンデミックインフルエンザの負担を軽減する最も効果的な戦略です。mRNAワクチンは迅速な開発、柔軟性、高い有効性という点で従来のワクチンプラットフォームに代わる有望な選択肢とされています。しかしながら、非コード調節要素であるUTR(非翻訳領域)などの最適化は、mRNAワクチンの性能向上に不可欠です。本研究では、インフルエンザAウイルスのMセグメント由来の新規UTRを設計し、選択的塩基対強化変異(M1+2)により最適なパンハンドル構造を形成させ、mRNA翻訳効率と免疫原性の向上を目指しました。レポーターmRNAおよびHA抗原コードmRNAの両方を用いて、M1+2UTRが未修飾UTRや標準的なα‑globin UTRコントロールに比して、in vitroおよびin vivoでのタンパク質発現を著しく増強することを示しました。マウスモデルにおいて、HA mRNA‑リポソームナノ粒子(LNP)にM1+2UTRを組み込んだ低用量(0.1 µg)ワクチン接種は、強固な自然免疫、体液性免疫、そしてT細胞媒介免疫応答を誘導し、H1N1、H3N2、IBVといった季節性インフルエンザ株に対する致死的挑戦から完全な保護をもたらしました。本成果は、合理的なUTR設計がより効果的かつ用量節約型のmRNAワクチン開発に寄与する可能性を示唆しています。
ワクチン開発チームが低用量候補を設計する際、抗原配列だけでなくUTRも比較変数とする根拠が得られた。例えば、同じHA抗原と送達条件でUTRを変え、投与量を下げた場合にも抗体応答やチャレンジ試験での防御が維持されるかを評価する方法が考えられる。今回のマウス研究が示した可能性は、1回0.1μgを2回投与した条件に限られる。今後の開発では、発現増加が長期的な防御につながるか、免疫活性化と安全性のバランスが保たれるかを確認する必要がある。生産量の拡大やコスト削減は、こうした検証が進んだ場合に期待できる効果であり、ヒトでより少量かつ安全な接種量が確立したことを意味するものではない。