プライム編集によるアミノ酸置換を用いた共有結合薬剤の細胞内標的解析プラットフォームの開発

背景
最近、バイオ医薬品および新薬開発分野では、タンパク質の特定アミノ酸と永久的に結合する共有結合リガンド(共有結合リガンド)の研究が活発に行われている。特に化学プロテオミクス(Chemical Proteomics)技術の進歩により、数百のヒトタンパク質において共有結合を形成するシステイン(Cysteine)残基が大規模に発見された。 しかし、こうした薬剤が結合できるアミノ酸部位が分かっても、実際に細胞内で結合が起こった際にどのような生理的変化が誘導されるかを大規模に確認することは非常に困難である。結合部位が実際に疾患治療や細胞死に関与する真の作用点(ターゲット)であるのか、あるいは単に結合するだけで生物学的活性には影響を与えない無意味な部位であるのかを区別するのが難しいためである。従来は、個々のタンパク質を遺伝的に操作し、細胞に注入するなど複雑で非効率的な方法を経る必要があり、多くの共有結合候補物質が発見されても、実際の標的との相互作用機序を明らかにできず、新薬開発研究のボトルネックとなっていた。
核心的発見
この限界を克服するため、研究チームはプライム編集(Prime Editing)技術を活用した新技術プラットフォームESCAPE(Endogenous Site-specific Competition Assays using Prime Editors)を開発した。このプラットフォームは、ゲノムレベルでアミノ酸配列を精密に修正するプライム編集を活用し、細胞内の特定のシステイン残基をセリン(Serine)残基に置換する方法を採用している。アミノ酸がセリンに置き換えられると、共有結合リガンドがそのタンパク質と結合できなくなる。その後、研究チームは薬剤が投与された際に各細胞集団の生存率と遺伝子型分布を分析し、対立遺伝子頻度に基づく耐性スコアを精密に解析した。 研究チームは、活性に基づくタンパク質プロファイリング(Activity-Based Protein Profiling, ABPP)技法で探索した50以上の標的タンパク質内のシステイン結合部位を対象に実験を行った。研究結果として、がん細胞の成長を抑制する多数の共有結合相互作用を選別する成果を上げた。代表的な検証事例は、RNAヘリカーゼ(RNA Helicase)の一種であるDDX49タンパク質の特定のシステイン残基であることが明らかになった。このアミノ酸はDDX49の活性部位ではなく、非オルトステリック(Non-orthosteric)結合部位に位置しており、従来の研究では検出が困難であった。しかし薬剤が結合すると、細胞内での18SリボソームRNA(18S rRNA)加工と40Sリボソームの組み立てが連鎖的に阻害され、最終的に全体のタンパク質合成が抑制されることが証明された。
意義と展望
今回の研究成果は、候補薬物の有効性検証を細胞レベルで迅速に進めることを可能にする。特に、従来の化学プロテオミクス研究が抱えていた結合部位の特定と実際の効能検証の間のギャップを縮めたとの評価を受けている。数百の標的候補を同時にスクリーニングする高速処理が可能になるため、次世代の標的治療薬開発期間を大幅に短縮できると予測されている。 ただし、臨床および産業現場への全面的な導入には、克服すべき課題が残っている。プライム編集の修正効率が細胞株によって異なるため、すべての遺伝子に均一に適用するのが難しい側面がある。また、標的外編集(Off-target Editing)などの副作用を克服しないと、プラットフォームの精度確保が困難である。さらに、候補薬物が動物実験段階で、体内環境と類似した条件下でも同様に活性化されるかどうかを検証する後続の検証も課題として挙げられている。
Chemical proteomics has identified covalent ligands targeting cysteine residues across many hundreds of human proteins. The functional effects of these liganding events, however, remain challenging to assign at scale. Here we describe ESCAPE (Endogenous Site-specific Competition Assays using Prime Editors), a platform for the site-resolved functional analysis of covalent ligands in cells. In this method, cysteine-to-serine substitutions are generated by prime editing to abrogate covalent ligand-protein interactions, and the impact of these edits on ligand-induced cellular phenotypes is quantified through allele frequency-based resistance scores. Applied to ligandable cysteines mapped by activity-based protein profiling in 50+ proteins, ESCAPE identified multiple covalent ligand-protein interactions that impair cancer cell growth, including azetidine butynamides that target a non-orthosteric cysteine in the RNA helicase DDX49 to disrupt 18S rRNA processing, 40S ribosome assembly, and protein synthesis. ESCAPE thus provides a scalable framework for the functional characterization of covalent ligands targeting structurally and mechanistically diverse proteins.
今回の研究で開発されたESCAPE技術は、新薬開発初期段階で薬物失敗率を低下させるための重要なツールとして活用可能である。がん細胞の特定のタンパク質を標的とする新規抗がん剤開発のシナリオを例に挙げることができる。新薬候補物質を投与した際にがん細胞の成長が抑制されても、それが本当にDDX49タンパク質との結合によるものであるのか、あるいは他の類似タンパク質とのオフターゲット結合による副作用であるのかを区別するプロセスが必要となる。この際、ESCAPEを用いてがん細胞内でのDDX49の結合アミノ酸を精密に変異させた細胞株を作製する方法がある。もし薬物が変異した細胞株では抗がん効果を発揮せず、正常細胞株では効果を発揮する場合、その薬物がDDX49のみを標的として作用する高精度な新薬候補物質であることを直接証明できる。これにより、研究開発プロセスにおいて不要なスクリーニングステップを大幅に省略し、有望な物質に集中することで、新薬承認の成功率を高めることができる。