プライム編集により3つの遺伝子を同時改変、複合除草剤耐性アルファルファを開発

背景
「飼料の女王」と呼ばれるアルファルファ(Medicago sativa)は、家畜飼育においてタンパク質供給源として広く栽培される多年生マメ科作物である。アミノ酸組成がバランス良く、ビタミンやミネラルも豊富で、粗飼料としての価値が非常に高い。一方で、圃場栽培においては多様な雑草の侵入に弱く、収穫量の減少と品質低下という二重の課題を抱えてきた。生育初期に雑草との日光、水分、養分の競合に敗れると、群落形成に失敗しやすい。
雑草防除において最も効率的な手段は除草剤の散布である。しかし、アルファルシーには除草剤耐性を持つ育種品種が決定的に不足していた。単一の作物圃場に侵入するイネ科および広葉雑草をすべて制御するには、異なる作用機序を持つ複数の除草剤を混合して使用する必要がある。既存のアルファルファ品種は薬剤感受性が高く、防除剤の使用を誤ると深刻な薬害を受ける。標的形質を導入しようとしても、4倍体作物特有の複雑な遺伝構造のため、従来の交配育種では複合耐性を短期間で付与することが困難であった。そのため、遺伝子編集を活用した精密な分子育種技術が切実に求められていた。
主な発見
研究チームは、アルファルファ細胞内での発現効率を高めたプライム編集(Prime Editing, PE)プラットフォームを設計し、作物ゲノムに存在する3つの標的遺伝子を一度に改変することに成功した。
改変の標的とした遺伝子は、アセトラクテート合成酵素遺伝子 MsALS1、MsALS2、およびアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子 MsACC1 である。イネ(rice)の相同遺伝子の既存研究に基づき、スルホニルウレア系などのALS阻害剤への耐性を付与する変異を MsALS1 および MsALS2 に設計した。これは、トウモロキビや大豆の栽培地で主に用いられるニコスルフルン(nicosulfuron)による防除に耐えられるようにしたものである。また、アリロキシフェノキシプロピオン酸(APP)系除草剤への耐性を持たせるため、MsACC1 遺伝子にも精密な点変異を計画した。
これら3つの遺伝子を単一の形質転換体で同時に編集するため、細菌由来のRNA加工酵素である Csy4 ヌクレアーゼシステムを導入した。Csy4認識配列で連結されたマルチ pegRNA 転写体を細胞内で発現させると、Csyブリッドタンパク質が各RNAを正確な単位で切断し、複数の複合体を形成する原理である。このシステムを通じて、アルファルファの3つの遺伝子において意図した塩基置換が精密に行われた。変異が安定的に定着した遺伝子編集アルファルファ系統は、ニコスルフルンとAPP系であるハロキシホップPメチル(haloxyfop-P-methyl)の二種類の除草剤を複合散布した温室試験においても、正常な生育を維持した。
意義と展望
単一の細胞において、オフターゲット欠失を起こすことなく3つの遺伝子を精密に置換した今回の成果は、4倍体多年生作物の分子育種における障壁を打破した事例として評価される。アルファルファのように染色体倍数性が高く、遺伝変異が複雑な作物は、二本鎖切断(DSB)を誘導する従来のゲノム編集技術を用いると、予期せぬ欠失や染色体再編成が発生しやすい。塩基配列を直接書き換えるPE方式をマルチターゲットシステムと組み合わせることで、ゲノム損傷を最小限に抑えつつ、望ましい遺伝子型を誘導できることが立証された。
農家レベルでは、イネ科雑草防除剤(ハロキシホップPメチル)と広葉・イネ科兼用除草剤(ニコスルフルン)を、目的に応じて選択的に組み合わせて使用するカスタマイズされた防除が可能になる。除草剤耐性雑草が出現した場合でも、作物へのダメージを与えずに交差防除体系を稼働させる余地が広がる。
ただし、圃場での実証段階には克服すべき課題も少なくない。形質転換体の選抜過程で使用された外来発現カセットが残存していないかの解明や、花粉媒介による遺伝子流動の遮断策も講じる必要がある。国ごとに遺伝子編集作物の規制基準が異なるため、外来遺伝子を含まない(null-segregant)系統の確保と、収量・栄養価の検証が実用化のスケジュールを左右することになるだろう。
Alfalfa (Medicago sativa) is the most widely cultivated forage crop worldwide, owing to its high protein content, balanced amino acid profile, and abundance of vitamins and minerals. However, weed infestation severely threatens alfalfa yield and quality. The lack of herbicide‑resistant cultivars, combined with the diversity of weed species, has made herbicide tolerance a key breeding objective. To address this challenge, we developed a highly optimized prime editing system and, for the first time, achieved prime editing in alfalfa by enhancing the expression efficiency of its components. Specifically, we introduced mutations in three target genes MsALS1, MsALS2 and MsACC1 to confer herbicide resistance: mutations in MsALS1 and MsALS2 were designed to confer resistance to ALS‑inhibiting herbicides (based on evidence from their rice homologs), while those in MsACC1 were targeted to confer resistance to aryloxyphenoxypropionate (APP) herbicides. Using the Csy4 nuclease system, we performed simultaneous prime editing of all three genes, ultimately generating alfalfa lines resistant to nicosulfuron and haloxyfop‑P‑methyl. This study represents the first successful multi‑gene prime editing in alfalfa, providing a novel tool and a valuable approach for alfalfa molecular breeding.
今回の研究は、大規模なアルファルファ採種団地や商業用飼料生産農家の生産性を向上させる実質的な契機となる。従来のアルファルファ栽培圃場では、初期の雑草防除のために事前に耕起を行うか、限定的な選択性薬剤に依存せざるを得ず、労働投入量や薬剤コストの負担が大きかった。今回開発された複合耐性系統を導入すれば、イネやトウモロキシ栽培地で使用されていた除草剤の組み合わせを、アルファルファの圃場にも柔軟に投入することが可能になる。
発芽直後の防除時期を逃すことで収穫飼料の粗タンパク質含有量が低下する現象を防ぎ、機械化収穫の効率を最大化できる。また、マルチプライム編集プロトコルは、乾燥耐性や倒伏防止、リグニン含有量の低減といった複合的な農業形質を一度に改良する、他の作物への分子育種技術の拡張適用にも即座に利用可能な技術基盤を提供する。