完全頸髄損傷患者4人にiPSC由来神経幹・前駆細胞を移植、2–4年間の安全性を追跡

背景
亜急性期の完全頸髄損傷患者4人に人工多能性幹細胞(iPSC)由来の神経幹・前駆細胞を移植した第I相試験が、52週間の安全性評価項目を満たした。患者ごとの総追跡期間は2–4年で、腫瘍や移植細胞に関連する有害事象は認められなかった。ただし、手術や免疫抑制薬に関連する有害事象は発生しており、観察された機能改善が細胞移植によるものかは確認できなかった。
脊髄損傷では、除圧・固定術やリハビリテーションで損傷した神経回路を再建するには限界がある。研究チームは先行する動物実験で、iPSC由来神経幹・前駆細胞の移植後に運動機能の回復を観察していた。人でも同様の結果が得られるのか。まず、異常な細胞増殖、脊髄内手術、免疫抑制に伴うリスクを評価する必要があった。Nature Medicineに掲載された本研究は、こうした安全性の評価を優先した初のヒトへの適用試験である。
主な結果
試験は対照群を設けない非盲検の単群方式で実施された。参加者は全員日本人男性で、年齢は26–66歳、神経学的損傷レベルはC4–C6だった。移植当日にも米国脊髄損傷協会機能障害尺度(AIS)のグレードAであることを再確認した。これは最も尾側の仙髄領域S4–S5の感覚や、所定の肛門感覚・運動機能が保たれていない神経学的完全損傷の分類を指す。脊髄が解剖学的に完全に切断されているという意味ではなく、本試験では切断損傷を除外した。
研究チームは、健康なドナーの臍帯血から作製したiPSCを神経幹・前駆細胞に分化させた。損傷後15–27日目に、患者ごとに200万個を損傷中心部へ1回注入した。免疫抑制薬タクロリムスは移植前日に開始し、6カ月間継続した後、減量して9カ月までに中止する計画だった。参加者は標準的な範囲のリハビリテーションも受けた。
主要評価項目は52週間の介入期間中の安全性で、すべての有害事象の重症度と、細胞、手術、免疫抑制との関連性を評価した。繰り返し発生した事象も個別に数え、有害事象は計84件だった。手術に関連する中等度の事象は、上気道分泌物の増加と髄液漏だった。タクロリムスに関連すると判断された軽度・中等度の事象は計22件だった。
重篤な有害事象の定義に該当する一過性高カリウム血症が1件報告された。無症状のまま自然に解消し、研究チームは実際の臨床的異常よりも、採血過程によるアーチファクトである可能性が高いと解釈した。移植細胞に起因する重篤な有害事象はなかった。
52週間の介入期間中の磁気共鳴画像法(MRI)と、移植24週後の陽電子放出断層撮影(PET)では、異常な細胞増殖を示唆する所見はなかった。その後も観察を続け、患者ごとの総追跡期間は2年、2.5年、3年、4年だった。この期間に腫瘍、移植細胞に関連する画像異常、予期しない神経学的悪化は確認されなかった。
探索的な機能評価では、52週時点のベースラインからの運動スコア改善の中央値は13点で、患者ごとの改善幅は10–40点だった。2人はAIS Aから、それぞれCとDに移行した。過去に登録された患者のデータより数値上の改善幅は大きかったが、無作為化対照比較ではない。自然回復や患者選択の違いを排除できず、治療効果と断定することはできない。
意義と今後の展望
本研究は、品質管理された同種iPSC由来細胞を脊髄に投与し、経過を追う臨床的な実施可能性を示した。ただし、画像上で腫瘍が認められなかったことは、細胞の生存や分化、神経回路への統合を証明するものではない。研究チームも、これらを直接確認できなかったと述べている。
参加者は4人で全員が日本人男性であり、結果を一般化するには限界がある。遅発性腫瘍や慢性的な免疫関連リスクを評価するため、長期監視も続けなければならない。今後の対照試験では、機能改善の因果関係と持続性を明らかにし、侵襲的な手術や免疫抑制を含む全体的なリスクとベネフィットを評価する必要がある。
研究デザインと結果は、提供された論文全文に基づく。
Nature Medicine, オンライン版掲載: 2026年7月21日; doi:10.1038/s41591-026-04549-6 亜急性完全脊髄損傷患者におけるiPSC由来神経幹細胞移植の安全性を評価し、MRI、神経学的評価、機能的評価を含む2〜4年の追跡調査を実施した第1相試験は、主要評価項目を達成した。
今後の脊髄損傷細胞治療試験を設計する研究者にとって、本報告は細胞製造、投与、安全性監視を結びつけた実施例となる。亜急性期に対象者を評価し、移植4日前に細胞を解凍して回復培養した後、脊髄内投与、免疫抑制、長期画像追跡を組み合わせた。後続試験では、こうした工程を担う製造施設に加え、手術、リハビリテーション、追跡観察の体制を準備する際の参考になる。
臨床開発では、腫瘍が観察されなかったことだけでなく、手術や免疫抑制に関連する事象も評価しなければならない。機能改善が自然回復を上回るか、リスクを受け入れるだけの臨床的利益があるかが次の検証課題だ。現時点の結果だけでは、標準治療の確立、承認の可能性、介護負担の軽減を判断することはできない。