プライム編集で家族性自律神経失調症の原因変異を持つミニジーンのRNAスプライシングを回復
原因変異によりエクソン20が欠落
家族性自律神経失調症(FD)の原因変異によって乱れたRNAスプライシングを、プライム編集で回復させた細胞実験の結果が報告された。HEK293T細胞に導入した変異ミニジーンでは、PE3適用後、エクソン20の包含率が19±2%から60±3%に上昇した。ミニジーンとは、遺伝子の一部を含み、スプライシング解析に用いる実験用構成体である。今回の成果は、このモデルでの概念実証にとどまる。
FDは感覚神経と自律神経が進行性に変性する、まれな常染色体潜性遺伝疾患である。論文によると、患者の99.8%ではELP1遺伝子のイントロン変異c.2204+6T>Cが原因となる。この変異によりRNAのスプライシング時にエクソン20が欠落し、ELP1の発現が低下する。特に神経組織では、正常な転写産物の割合とELP1発現が低い。
スプライシングを調節する物質は、すでに細胞や動物モデルなどで研究されている。今回、研究チームは原因変異を直接元に戻す方法と、スプライシング抑制部位を変える遺伝子編集戦略を試した。
直接修正と抑制配列の変更を比較
プライム編集(PE)は、DNA二本鎖切断や別個のドナーDNAを使わずに標的配列を変更する技術である。PE2は編集タンパク質とプライム編集ガイドRNAを用いる。PE3では、反対側のDNA鎖に一本鎖切断を導入するガイドが追加される。
研究チームは変異ミニジーンpTB-IKAPと編集構成要素を、HEK293T細胞に一過性に同時導入した。72時間後にRNAを抽出し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で解析したところ、エクソン20の包含率は、変異ミニジーン単独で19±2%、PE2で48±3%、PE3で60±3%だった。数値は独立した3回の実験の平均値と標準偏差である。19%は今回の実験における比較条件の値であり、既存治療の性能を示す値ではない。
DNA解析でも、PE3による変異修正が確認された。研究チームは制限酵素解析とサンガーシーケンスを行い、変性キャピラリー電気泳動により修正率を約10%と推定した。これはミニジーン実験におけるDNAレベルの測定値であり、RNAのエクソン包含率60%とは区別する必要がある。著者らは、検出法の感度や、修正されたDNAからRNAが繰り返し生成されることなどを、両結果に差が生じた理由として挙げた。
もう一つの方法では、エクソン20内のスプライシング抑制配列ESS2を変更した。アミノ酸を変えない同義置換A>Gを導入すると、エクソン包含率はPE2で30±4%、PE3で50±4%となった。原因変異を直接元に戻すのではなく、抑制配列を変更してスプライシングを回復させた。
治療可能性の評価には疾患モデルでの検証が必要
今回の研究は、直接修正とESS2の変更という二つの方法の概念実証を示した。ただし実験はミニジーンのみで行われ、実際のゲノム環境を十分に反映していない。患者由来細胞や生体内の神経系での効果、ELP1タンパク質の回復、長期的な効果の持続性は、今回の結果からは確認できない。
論文は、ELP1発現のわずかな回復が疾患を軽減した先行マウス研究を根拠に、治療可能性を論じている。しかし、発現量とDNA修正率は異なる測定値である。今回の約10%という修正率を、患者の完治や治療効果を保証する閾値と解釈する根拠はない。標的以外の部位が編集される可能性についても、計算予測による評価にとどまる。今後は疾患モデルでの有効性、編集ツールの神経系への送達、実験による安全性の検証が必要だ。
出典:Orphanet Journal of Rare Diseases掲載論文。
Familial Dysautonomia(FD、OMIM #223900)は、稀少で致死的な常染色体劣性遺伝性ニューロパチーで、患者の99.8%はELP1/IKAP遺伝子のc.2204 + 6T > Cイントロン変異に起因します。この置換はエクソン20のスキッピングを誘発し、ELP1の発現低下をもたらします。スプライシング調整療法は部分的な有効性を示すものの、永久的な遺伝子修正は未だ実現していません。本研究では、Prime Editing(PE)を初めてFD原因のIKAPスプライシング欠損の救済に適用したことを報告します。変異エクソントラッピングミニジェン(pTB‑IKAP)をHEK293T細胞に一過性で共トランスフェクトし、PE2またはPE3コンポーネントと併用した結果、エクソン20の含有率が19 ± 2%からそれぞれ48 ± 3%および60 ± 3%へと有意に増加しました。制限酵素断片長多型解析とサンガーシーケンシングにより変異対立遺伝子の修正が確認され、PE3は約10%のゲノム編集効率を達成しました。さらに、ESS2を無害なA > G置換で標的とすることで、エクソン含有率を50 ± 4%に回復させました。これらの結果は、Prime Editing、特にPE3がELP1/IKAP c.2204 + 6T > C変異を効率的に修正または回避し、適切なスプライシングを回復できることを示す概念実証です。ELP1発現が野生型の5‑10%増加するだけでもマウスモデルでFDの重症度が顕著に軽減することから、我々の結果はPEが有望で潜在的に根治的なアプローチであることを強調し、今後のex‑vivoおよびin‑vivo研究の基盤を築きます。
この研究では、同じ変異ミニジーンを用いて、原因塩基を直接修正する方法とスプライシング抑制配列を変更する方法を試した。今後のFD研究では、両方の方法を患者由来細胞や疾患モデルに適用し、エクソン包含率だけでなく、ELP1タンパク質の発現や神経系機能も併せて回復するかを比較する研究を設計できる。DNA修正率とRNAのエクソン包含率を別々に測定すれば、編集結果とスプライシング回復の関係を評価する助けとなる。治療法の開発には、神経系への送達、効果の持続性、標的以外の編集についても検証が必要だ。今回の結果はこうした後続の検証の出発点であり、患者の症状改善を実証したものではない。