メルク、ニューフォリア・セラピューティクスのアルツハイマー病新規治療薬候補「MK-1167」の第2相臨床試験を中止

臨床試験中止の直接的な原因と薬剤情報
メルク(Merck & Co., MRK)が、ニューフォリア・セラピューティクス(Neuphoria Therapeutics, NEUP)と共同開発していたアルツハイマー病治療薬候補「MK-1167」の第2相臨床試験(NCT06721156)を中止しました。中間解析の結果、有効性の不足が確認されたためであり、安全性上の問題はないと発表されています。ブランド名と成分名はまだ決定されていないMK-1167は、α-7ニコチン性アセチルコリン受容体(alpha-7 nAChR)を刺激する陽性アロステリックモジュレーター(PAM)である低分子化合物です。既存の標準治療薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と併用して、349人の患者の認知機能の改善を目指しましたが、有効性を証明できませんでした。
パートナーシップの財務構造と影響
今回の失敗は、ニューフォリアにとって深刻な財務的打撃となるでしょう。両社は2014年に総額5億2,600万ドルのライセンス契約を締結し、2,000万ドルの初期費用を支払いました。第2相臨床試験の開始に伴い、2025年2月に1,500万ドルのマイルストーンが支払われましたが、残りの5億600万ドルの権利取得は不透明になりました。さらに、ニューフォリアは昨年10月、社会不安障害の新規治療薬「BNC210(soclenicant)」の第3相臨床試験の失敗後、組織再編やM&Aなど、独立した存続の道を探るという危機的な状況に置かれています。
アルツハイマー病治療薬市場の競争状況
現在、世界のアルツハイマー病治療薬市場は、2025年には53億8,000万ドルから2026年には77億9,000万ドル規模に拡大すると予測されており、高い成長を遂げていますが、参入障壁も非常に高いです。現在、市場は、エーザイの「レケンビ(Leqembi)」やイーライリリーの「ギスンラ(Kisunla)」などのアミロイドβを標的とするモノクローナル抗体によって主導されています。経口投与で利便性の高い低分子化合物を前面に打ち出しましたが、血液脳関門(BBB)を通過して標的受容体を微調整することに限界があったことが、決定的な原因でした。
メルクの今後の開発ロードマップ戦略
今回の中止により、メルクはアルツハイマー病ポートフォリオに大きな空白が生じました。メルクに残された唯一のアルツハイマー病候補薬は、日本テージンファーマ(Teijin Pharma)から導入し、2029年に完了予定のタウを標的とする抗体「MK-2214」だけです。パートナーであるニューフォリアは、英国のスカンセル・ホールディングス(Scancell Holdings, LSE: SCLP)から、ナスダックへの迂回上場を目指す株式交換方式の逆合併を提案されており、存続の道を探っています。メルクもまた、パイプラインの多様化のために、新規薬剤の導入を積極的に検討する必要がある時期です。
メルクのMK-1167第2相臨床試験の中止は、2026年を基準に77億9,000万ドル規模と評価される世界のアルツハイマー病治療薬市場において、低分子化合物に基づく経口薬の開発の難しさを改めて証明しました。短期的に見ると、パートナーであるニューフォリア(NEUP)の残りのマイルストーンである5億600万ドルの回収が不可能になり、スカンセル(SCLP)との迂回上場を目的とした逆合併の成否など、経営上の不確実性が極大化すると予想されます。中長期的に見ると、市場をリードするエーザイのレケンビやイーライリリーのギスンラなどのアミロイドβを標的とする抗体治療薬との格差がさらに広がる可能性があります。また、メルクは唯一のタウ標的パイプラインであるMK-2214(第2相臨床試験)に依存することになるため、ポートフォリオの多様化に向けた追加のライセンス導入(L/I)の必要性が高まっています。