Merck・Moderna、mRNAワクチン「intismeran」の臨床第3相試験成功、商用化に向けた製造ボトルネックの解消に着手

臨床第3相の成功で確認された個別化がんワクチンの有効性
Merck(Merck & Co., MRK)とModerna(Moderna, MRNA)の個別化ネオアンチゲン治療薬「intismeran autogene(mRNA-415rypt/V940)」が、高リスク切除メラノーマを対象とした臨床第3相試験(INTerpath-001)において、無再発生存率(RFS)および遠隔転移のない生存率(DMFS)の主要・副次エンドポイントをすべて達成しました。標準治療(SoC)である免疫チェックポイント阻害薬「Keytruda(pembrolizumab)」単独投与と比較して、再発および転移のリスクを顕著に低下させた、初のmRNAがんワクチン臨床第3相の成功です。術後補助療法(Adjuvant)において、患者固有の34個のネオアンチゲン(Neoantigen)を標的とするアプローチが臨床現場で有効であることを証明した快挙といえます。
患者個別の生産方式が引き起こすボトルネックと拡張性の限界
臨床の成功にもかかわらず、商用化における最大の障壁は、従来の大量増産(Scale-up)方式ではなく、水平的な並列拡張(Scale-out)製造プロセスの構築です。intismeranは、患者の腫瘍生検とシーケンシングを経て、個人ごとにmRNAを合成する個別化(n-of-1)プロセスで製造されます。数万人の患者へ同時に供給するためには、高度な計算設計、分離精製の自動化、および患者ごとの識別・追跡(Chain of Identity)体制の確立が不可欠です。病状の進行が早い重症患者のため、生検から投与までの所要時間(Turnaround Time, TAT)を6〜8週間以内に短縮することが、治療の成否を分ける核心的な課題となります。
Dendreonの商業的失敗の教訓とModernaの専用設備への勝負手
2010年に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けたDendreonの前立腺がん細胞治療薬「Provenge(sipuleucel-T)」は、製造原価(COGS)が販売価格の約77%に達し、5年で破産した痛ましい前例があります。Modernaはこの事態を克服するため、マサチューセッツ州マールボロ(Marlborough)に専用の自動化施設を完成させ、数週間単位の並列生産ラインの稼働を開始しました。しかし、グローバルな受託開発製造(CDMO)パートナーや原材料サプライチェーン全体が個別化体制へと転換されなければ、高い原価負担により利益の確保が困難になる可能性があります。結局、薬価交渉力と患者のアクセシビリティを守るためには、自動化によるコスト削減と標準化された品質管理が商用化の決定的な鍵となります。
「Cold Tumor」の壁と既製品(Off-the-shelf)治療薬への進化ロードマップ
Merck・Modernaの成果の直後、BioNTech(BioNTech, BNTX)とGenentech(Genentech, ROG)は、大腸がんを対象とした個別化ワクチン「autogene cevumeran(BNT122)」の臨床第2相試験を、全生存期間(OS)の不均衡を理由に早期中止しました。変異負荷(TMB)が高い免疫学的に「Hot tumor」であるメラノーマとは異なり、大腸がんのような「Cold tumor」はネオアンチゲンの発議が少なく、単独療法の効果を得ることが極めて困難です。そのため、業界は化学・免疫併用療法の精緻化を進めると同時に、蓄積された生検ビッグデータを用いて共通変異を標的とする既製品(Off-the-shelf)mRNAワクチンへとプラットフォームを進化させ、製造の難題を突破しようとしています。
MerckとModernaのintismeran臨床第3相試験の成功は、グローバルなメラノーマ治療薬市場(約60億ドル規模)および、100億ドル規模へと急成長する個別化がんワクチン分野における商用化の分水嶺である。しかし、個別化(n-of-1)製造の特性上、高い製造原価(COGS)と6〜8週間に及ぶ所要時間(TAT)のボトルネックを解決できなければ、過去のDendreonによるProvengeの破産事態が再現されるリスクが常に存在する。Modernaのマールボロ専用自動化施設の構築と、グローバルCDMOサプライチェーンの革新が、商業的な利益率と薬価交渉力を左右する重要なベンチマークとなる見通しである。BioNTechとGenentechの大腸がん臨床第2相中止が示した通り、Cold tumorへの適応拡大には明確な限界があるため、短期的には免疫学的に反応しやすい腫瘍を中心とした併用療法、中長期的には既製品(Off-the-shelf)mRNAパイプラインへと転換できる企業が市場の主導権を握ることになる。
ソース: BioPharma Dive (rss)
https://www.biopharmadive.com/news/mrna-cancer-vaccines-commercialization-manufacturing/830137/